白居易「早冬」

今日は新月、旧暦の10月1日です。

旧暦十月の声をきくと思いだすのが、この白居易(白楽天)の漢詩です。



早冬

十月 江南 天気好(ことむな)し
憐む可し冬景の春華に似たり
霜は輕(かろ)く未だ殺(か)らさず萋萋(せいせい)たる草
日は暖かく 初めて乾す 漠漠(ばくばく)たる沙(すな)
老柘(ろうしゃ) 葉は黄にして嫩樹(どんじゅ)の如し
寒櫻(かんおう) 枝は白くして是れ狂花
此の時却って羨む閒人(かんじん)の醉ふを
五馬(ごば) 酒家に入る由も無し



以下はお恥ずかしいですが、わたしの拙い意訳です。


げに穏やかな江南の十月
愛でようぞこの時を 麗しき小春日の午(ひる)
わずかな霜に草は枯れず いまだ萋萋と生い茂り
暖かな日に漠漠たる大地は乾きはじめる
老いた山桑の葉は 黄に染まって若返り
白く狂い咲くはこれ寒櫻
ああ日未だ高くして醉いたのしむ閑人の羨ましいことよ
わが車を酒家の軒先に付けるわけにも行くまいて


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「枕草子」の第197段に

「文(ふみ)は文集 文選 新賦 史記 五帝本紀 願文 表 博士の申文」

とありますが、

その筆頭にある「文集」とは「白氏文集」のことであり、
白居易の漢詩集のことです。


この「早冬」はその巻二十に収められている作品で、
初冬の和歌の句題にも多く使われたようです。


中国史上、政治の中心は洛陽や長安(今の西安)のある

「中原(ちゅうげん)」と呼ばれる地域にあることが多かったのですが


文化の中心は長く風光明媚な江南(今の江蘇省)の地でした。


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中原と違って江南は冬でも穏やかなのでしょう。

特に冬の初めは春のごとく麗しい眺めなのか、

未だ青く生い茂る草、若黄色の桑の葉、白い寒櫻といった豐かな色彩が目に浮かぶようです。



そして真面目な官僚でもあった白居易でもこんな日は昼から酒に醉うひま人を羨んだのかと思うと、

なんだかふと笑みのこぼれるような詩ではないでしょうか。

色彩豐かな冬を歌った詩といえば
蘇軾の「贈劉景文」もありますが、

それと並んで初冬の風景にも華を見出すことを教えてくれる

とても優れた作品ではないでしょうか。

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最後にこの漢詩の影響を受けて作られた和歌をふたつ、ご紹介いたします。



神無月いり江の南その里は空にぞ春のかげを知るらん(藤原隆房)


神無月はるの光か晴るる江の南にめぐる空の日影も(武者小路実陰)




もうすぐ年の瀬、

ことしも皆さまが穏やかで美しさに満ちた冬を過ごされますように。